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『ETCカードヲ、ソウニュウシテクダサイ。』

エンジンがかかるのと同時に、聞き慣れた機械音が車内に響いた。
ガイドが、『これはなんて言っているんだい?』うちに尋ねる。

『カード入れてくれだってさ』
うちの語学力では、ETCが何の略なのかまでは説明することは出来なかった。

それにしても、日本でETCが普及したのってつい最近じゃなかったっけ?
まさか、そのETC装置のついた車が、遠く南半球
標高3700m、富士山山頂の高さにも匹敵するボリビア ラパスまで
やって来ていようとは・・・

うちのおとんの車でさえETC機なんて付いていないのに。

ガイドとツアーメンバーを乗せた二台のバンは標高4700mほどの場所まで移動する。

標高4700mから標高1000mほどまで、高低差3000mを自転車で 一気に駆け下りる
『ダウンロードヒルツアー』
通称『デスロードツアー』が、始まるのだ。

デスロードとは、緑深いボリビアの山肌にぐるぐる、ぐるぐると下へ下へと
どこまでも巻き付けたような細い山道のことだ。
2台の車が、すれ違う事もままならないような、ガードレールもなく
舗装もされていない、か細い砂利道は、
雨期ともなると路肩がもろくなり、何台ものバスやダンプを谷底へと呑み込み
年間200人もの死者がでるという。
そうして『デスロード』と呼ばれるようになってしまったらしい。

2台のバンが、ようやく出発点に到着。
ツアーメンバー、それぞれに今回、命を預ける事になる
マウンテンバイクが配られる。

レンタルできるマウンテンバイクには、ランクが3段階あり
上、中、下、それぞれ料金がちがう。
ランクが高いほどブレーキやサスペンションの性能がよく
料金も張るというわけだ。
うちは、日本人らしく、真ん中のランクの自転車を選んでいた。

ガイドが、黄色い車体のマウンテンバイクを、うちに手渡し、
ダウンチューブ部分のロゴを指差しながら、なにやらにやにや笑っている。
そこには、『YAKUZA』と書かれていた。

『ジャパニーズマフィアって意味だろ?』ガイドが言った。

ラパスは、日本人観光客が多いからだれかに教えてもらったのだろう。
今日一日、命を預ける相棒がヤクザか!なんだか知らないが親近感。心強い!
よろしくたのむぜ!


ツアー会社支給のジャンバーを着込み、ヘルメット、サングラス、肘当て、膝当て、
グローブを各種装着する。
晴天なため、うち以外の参加者は 皆、半袖シャツ姿だが
砂利道で転んだらどうするんだよ!!


出発にあたり、説明が始まる。
南米ボリビアは、スペイン語圏。参加メンバー全員がスペイン語を
理解出来るようだ。
うち一人だけは英語で説明してくれる。
さすが、世界各国から観光客が来るだけあってサービスも行き届いている。
まぁ、ホントは英語もあんまり・・なわけだが・・・
まかせろ!!言わんとしていることはわかる!!

ツアー開始!!
最初は、道幅も広く、きれいな舗装道路!ゆるやかな下り!
なんだ、楽勝じゃん!とおもいきや

舗装道路が途切れると事態は一変する。

がたがたと激しい砂利道の振動が両腕に伝わり、
あわよくば、タイヤの進路を変え、谷底へ落としてやろうと、
ランダムに敷き詰められた小石たちが、機会をうかがっている。

うちは、させてなるものか!と、両腕に力を込め、
針の穴を通すように最善のルートを即座に選びながら
細やかなハンドル操作をする。
道は悪いながらも、気を抜けば、スピードもどんどんあがる。
ブレーキ操作にも、気を配る.


ところどころに建てられた、石碑や十字架が視界に入っては過ぎて行く。
ここで落ちたのね・・・・・・
気が引き締まるとともに、スリルを掻き立たせる。

楽しー!
スピードがあがっていくにつれ、前方を走っている
同じツアーメンバーの欧米人が邪魔臭い・・・。
道路は狭く。片側はガードレールもない崖。片側は切り立った壁。
一瞬の隙を逃さず、インから抜き去る!

うおおおおおおお!

なんぴとたりともオレの前は走らせねぇ!!

こういうシチェーションになると、どうしてもそういう気分になるから困る。

前のほうで、うちらとは、ちがうツアーの女の子が
ガイドに付き添われながら、泣きながら歩いている。
砂利道にタイヤをとられ、転倒してしまったのだろう。
Tシャツから出たはちきれそうな二の腕が、擦りむいて血だらけだ・・・。

だから、暑いからってTシャツは、危ないとあれほど・・・・

この後、うちのツアーのガイドも転倒し、三角巾で腕を吊っていた。
毎日のようにデスロードを下っているベテランガイドですらそうなのだ。
このツアーの危険さが伺える。

怪我人のみならず、死者すらも出るツアー。

『デスロードツアー』

君は生き延びることができるか?

 

 

 

 

 

 

 

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