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『郵便配達員のいないポストがあります。』

そう言いながら、ガイドはまっさらなポストカードを ツアーメンバーに配っていた。

南米エクアドル。
ガラパゴス諸島にフロレアーナという小さな島がある。

大航海時代。

世界各国、様々な国の捕鯨船が獲物を求め、この海域を行き来していた。

ある船長が島にポストを設置する。
それは、郵便配達員のいないポスト。

出航してしまえば、何ヶ月どころか何年も帰る事は出来ない船乗り達が
このポストに立ち寄り、家族や恋人に向けた手紙を投函する。
そして、別の船乗りがこのポストで、自国宛の手紙を見つけると持ち帰り、
帰港後、投函したり、手渡しで届けたりしたのだという。

それから数百年が経ち、 捕鯨船が立ち寄ることもなくなり、
遠く遠く離れていたとしても一瞬でメッセージが届いて、
skipeでお互いの顔を見ながら愛の言葉も囁ける現在。
一大観光地として発展し、世界中の人々が集まるガラパゴス。

世界各国の観光客が、何時届くとも知れない、だれが運んでくれるとも
しれない切手のない手紙にロマンを感じ、今でもその習慣が受け継がれ、
今度は観光客たちが、手紙を投函し、
自分の国、自分の住む町宛の手紙を見つけては、 その宛先まで届けるようになっているのだという。

 


 

 


2010年8月12日
フロレアーナ島 Post Office Bay

そこにあったのは、流木や廃材を寄せ集めて作った、ちいさな郵便局。
ガイドが屋根の付いた樽から、ビニール袋を取り出しながら説明を始める。
『持ち帰って良いのは、自分が手渡しで届けられる手紙だけです。』
そういいながら、ビニール袋から何百通はあるであろう
ポストカードの束を、ツアーメンバーたちに渡す。

宛先の国名を一枚一枚確認する。
うちの場合は日本語を探せばいいわけだから 他のメンバーよりは幾分探しやすい。
アメリカ、オーストラリア、ブラジル・・・・
様々な国の住所が書かれているが、日本語がまったく見つからない。
同じツアーメンバーの一人が、この手紙、日本じゃない!?と うちに見せる。

それは、アラビア語で書かれた手紙だった。

『ちがうよー、たぶんイスラエルとか中東のほうかも』
漢字で中国あたりとまちがわれることはあるかも?と、思っていたが
まさか、アラビア文字とは・・・
ヨーロッパの人達にとっては、アジアも中東もいっしょくただ。

お・・・日本語だ!一通、日本語の手紙を見つける事ができた。

住所は・・・神奈川県!!これなら、うちでも届ける事ができる!!

投函日は・・っと、8月9日!?

なんだ・・・たった3日前じゃないか・・・

うちは、そっとその手紙を束の中にもどす。

こういうものは、何年後とか何十年後とか
忘れた頃に届くからこそ良いのだ。
そういえば、ガラパゴスで手紙を出した!!と、
その当時の思い出が蘇り、懐かしく嬉しく思うものなのだ。

結局、手紙は持ち帰る事はできなかった。

同じツアーメンバーのオランダ人カップルが
10通ほどの手紙を抱えている。

そんなにあったの!?

まぁでも、旅好きな二人のことだ
手紙を届けながら各地をめぐる旅というのも、また楽しいものかもしれない。

そしてうちは、北海道の実家と、自分の家宛の2通を
ポストカードの束に忍ばせ、樽の中にもどしたのだった。



数週間後、

親からメールが入る。『帰って来たのか!?』

その時、うちはブラジル、イグアスの滝を観光中だった。
帰るどころか、まだまだまっただ中なのになにを言ってるんだ?と思いきや
どうやら、実家に送ったほうのポストカードが届き
うちが帰国したものと勘違いしてしまったらしい。
そのポストカードには、切手が貼られていて、
ガラパゴスから帰国後、郵便ポストに投函してくれたのだろう・・・・。

まぁ、北海道まで手渡しっていうのは無理か・・・。

それにしても、
まさか、うちの帰国よりも早いとは・・・・。

ということは、もう一通
自分宛の手紙も届いてるかな?と思っていたのだが
届いてはいなかった・・・・。

世界一周の旅から帰って、半年が過ぎた。

それでも、手紙は届かなかった。

日々の生活に追われて、 世界を旅したことも、
ガラパゴスでのことも、 切手のない手紙のことも、

遠い遠い過去の思い出とかわろうとしていた。

 

2011年 7月25日
郵便受けに、ピザ屋のチラシとマンションのチラシにまぎれて

見覚えのあるポストカードを見つける。

うおおおおおおおおお!!

それは、あの時自宅に送った自分宛のポストカードだった。

ひっくり返して宛名を確認する。 切手が貼られていない!?
ここまで届けてくれたのだ・・・・。

フロレアーナ島で投函したのが2010年8月12日。

あれから約1年・・・。
もう、もどって来ないものと、あきらめていたのに!

1年もの月日をかけて、うちの元にもどってきてくれたのか・・・。

この子は、1年もの間、どういった経緯をたどってきたのだろう・・・。

届けてくれた人は、どういった経緯でガラパゴスに渡って
この子を見つけて、1年後の今、うちまで届けてくれたのだろう・・・。

話が聞きたかった・・・・・。

ポストカードに住所だけでなく、メールアドレスも記載しとくべきだった・・・。

どんな人が届けてくれたんだろう・・・・・。

ポストカードには、

『これが届くころには、何をしているんだろう? がんばっていてくれてると、うれしいです。』  TIPTOPの船上にて
と、書かれていた。

その当時の、帰国後に対しての不安やらなんやらが見え隠れしていて
なんだかちょっと可笑しい。

それにしても・・・・

1年に渡る長旅、お疲れ様でした。 またうちのもとに戻って来てくれて

ほんとうにありがとう。

これでまた

明日もがんばれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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